現代美術 増川寿一
増川寿一の作品「Island」をめぐって
今回の増川寿一の作品「Island」は、いりや画廊で2022年に企画された「壁11㎡の彫刻展」の出品作(ちなみに作品名も同じ「Island」)の流れを汲むものである。
ところで、増川の作品は、1986年の初個展から1992年くらいまで、立体的な作品、それも一つの自己完結した構造体としての作品の時代が続いた。これは、そもそも、増川が大学で彫刻を学んだことを強く反映している。その後、1995年から現在に至るまで、そうした形態の作品から、必ずしも立体的な構造を持たない、素材も樹脂や塩など、そしてメディウムも映像、写真と多様化しながら展開してきている。
この出品作「Island」は、素材がセラミックと木材(角材を加工したもの)を組み合わせたインスタレーション作品である。このセラミックは、同様の素材を使った作品「Colony #5 2021」があるが、ここでは、セラミックの集合体が円環を構成した形態になっている。閉じられた円環は、「Island」においては、円環は崩されて解放され、面として拡張することを予測させる形態へと変化している。
ところで、自身の説明によれば、
2008年、秋山画廊の作品以降の展開は以下のようになります。
温度(体温)→ 蜜蜂(生態)→ 塩(結晶)→ 身体(エントロピー)
→ 核型(染色体)
こうした変化を見てみると、かつて自立した立体作品の時代に見せた自身の考え方を外在化させたものとしての作品は、次第に、自身の身体に有機的に繋がる素材によって内在化させた作品へとベクトルを切り替えたように見える。無論、どちらも最終的に物理的な作品として提示されるものの、近作においてはそれを受容する際に動員される知覚の多様性(聴覚、嗅覚、触覚など)が際立っている。
美術としての彫刻がヨーロッパのルネサンス期に成立する一方、それよりも古く、つまりギリシャ時代では、モノ=物体は外から形を与えられ、人間も含め生物はその内側から形が作られてきたという認識があった。そこから導き出されるのは、生物は形が内在する実体として、そしてモノは形が外的に付随する偶性(或いは偶有性=アリストテレス)としての認識であった。増川の作品は、期せずして、初期のモノ=彫刻から、言わば生物における実体へと移行しているように思える。それは、同時に、本来の彫刻が解体され、そしてモノが有機的な関係性を持って付置された構成への移行でもあるのだ。
天野太郎
東京オペラシティアートギャラリー
チーフ・キュレーター
[2022.5 極小美術館テキスト]